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前編より続く>
>材料とか、使うところとか、そういったことは打ち合わせの段階で出てくるアイデアだったと思いますが。
-- 保川社長
実際にはその場、その場で変わっていきながら、こうしたいっていうアイデアが「もんしち」さんから出てきたら、デザイナーも加わっていて、そのデザイナーがこうしたらどうかという案を出して、それに対して具体的に当社でできることをすり合わせながら進めました。通常はこうしたことを設計とデザイナーと施主様が話し合いながらやっていくんですよ。施工は途中で話には入らないんですが、今回はかなり入りました、というか入っちゃいましたね(笑)。
設計さんは施工にあまり負担をかけないようにとセーブしたりとか、逆にちょっと奇抜なアイデアを出したりとか、危ないことも結構あるんですよ。施工の段階でそれをどうやってやろうとか、考えながら作業を進めていきます。そういう意味では、アイデアがたくさん盛り込まれた今回は、かなり短期間で進めたプロジェクトと言えるんじゃないでしょうか。
>そういった仕事の進め方のほうがやりやすいのではありませんか。
-- 保川社長
そう、やりやすいですよ。保川さん、これを見つけましたからこれでやってくださいって言われるより、やりやすいですね。
-- 林社長
今回のデザイナーさんはうちが見つけてきたんですが、保川さんとも元々面識があって、古民家とかも手がける施工会社にいて、そこから独立してやっている方なんです。
-- 保川社長
2018年に、当社が手がけた富里市のスーパー銭湯・湯楽城(
Click)をデザインした方なんです。
-- 林社長
古民家の再生って一からつくるわけではなく、あるものをどのようにしていくかっていうことなのでしょうが、こんなに難しいことだって思わなかったし、なんかイメージが掴みづらかったです。
>左官の福邉さんもおっしゃっていましたが、いわれた色とかでサンプルを何種類か用意してお見せするんだけど、サンプルは小さなものだから、実際のサイズになった時をこれでほんとにわかるのかな、私らだってわかりくいんだからって。

-- 林社長
そうですね。正直私たちもよくわかんなかったです(笑)。だから、じゃこれで、みたいな返事でね(笑)。床の色もそうですが、でもやってみて、結果、全部正解だったですね。今いるここの床の赤もすごい格好よくなりましたし。
>赤とか、青とか、座敷の方はアースカラーでとか、こういう色の決め方ってどういうふうだったんですか?
-- 山口代表取締役
林社長がイメージをしゃべって、それを形にしたものを私が言葉にして伝えるっていうやり方ですね。
-- 林社長
その辺はもう感覚なんで、なんとなくこんな感じって話すんです。
>一般住宅の民家再生とこうしたお店の民家再生ってどこか違う点ってありますか?
-- 保川社長
うちでは社員が一般の住宅を担当してやっていますが、結構変わったお客さんが多いんです(笑)。でもよくやっています。それで、難しい工事とかになると私が担当するんです。それって飲食関係に近いものが多いんです。例えば普通は家にない装飾だったりとかあるんですが、そういう点ではうちのお客さんでは、飲食に近い再生工事があって、今回ともつながりってあるように思いますね。
>新潟県から移築再生した茂原市のS様邸(Click)なんかは、飲食店に共通する点が多くありますよね。
-- 保川社長
あそこは元々ゆくゆくは飲食店をやりたいってことでしたから特にそうなんですけどね。あと別荘とかもそうで、お客さんを呼んで楽しんでもらうゲストハウス的な感じでつくるとか、人を呼ぶっていうところでは住宅もお店も考え方は変わりません、つながってますよね。
今後については、うちでは住宅はもちろんですが、商業物件を増やしていきたいなと思っています。こういう古民家を住宅だけで残そうとすると限界があるんです。人口がどんどん減少してきちゃってますからね。こういう店舗であるとか、民泊施設であったりとか別形態での利用方法を提案できるようにしたいんです。そうすると地域に残っているハード面での資産も残っていくはずなんです。さらに、今、コロナ禍で制限されていますが、海外の人も日本に来て鉄筋コンクリートの建物では日本の文化を感じることはできないでしょう。やっぱりこういう昔ながらの作りをしている古民家なんかから日本を感じ取るんじゃないかと思うんです。
>今回の工事は規模も大きなものでしたが、工務店としていちばん苦労されたのはどのあたりにありますか?
-- 保川社長
そうですね、お客さまがすごく発想が豊かなもので、苦労というよりおもしろかったですけどね(笑)。
今回は移築といっても曳家なんですね。曳家っていうと残す部分以外は解体しちゃって曳くんですが、今回は一部をそっくり残さなくちゃいけなかったんです。厨房ですね。そこを残した状態で曳家して、それをまた使えるように下ろすっていうのは、なんとなくできそうだなっていうイメージはできるんですが、それをやらせるというのは苦労しましたね。みんなふた言めには無理だようっていってましたから。それを「無理じゃないっ!」てね(笑)。施工面からいうとこの辺りが大変でしたね。

それと曳家は難なくやってくれたように見えたんですが、普通にがぁーって引っ張ると全部壊していっちゃうんですよ。曳く時はほぼくっついた状態になってますから、微妙に離しながら引いてるんです。滑車を横に引っ張って離しながら引いてるんです。ただ見てるだけだと普通にまっすぐ引っ張っているように見えますが、実はかなり高度な技が使われていたんですよね。
今回はそうしたことを公開でやったので、自分でハードルを高くしたんですが、公開して一般の方にお見せするとね、大工の棟梁も「普段は曳家は見たことはないんだけど、今回はいい席でじっくり見させていただきましたよって」いってるように、職人のモチベーションも上がりますからね。ただ、この仕事には段取りがあるので、それを優先させちゃうと公開でやるっていうのは絶対にできないんです。それを今回は、この日に公開でやるって初めに決めちゃいましたからできたんでしょうね。
あと大変だったことっていうと、厨房がど真ん中にあるっていうことでしょうか。そこにうまく納めるっていうのは、普通の住宅だったらそんなに問題ないんですが、飲食店というのはやっぱり特別なんです。検査があるんですよね、保健所とか、消防とか。そこをクリアしなくちゃいけないんですよ。でも、燃えるものばかりでしょ。そこを交渉してクリアしていくっていうのは苦労するところだったですね。
>完成までいろいろ苦労されて、無事オープンとなって営業されていますが、こういう店にしてよかったなって実感されることってありますか?
-- 林社長
それはもうよかったなって思いますね。オープンして2ヶ月ほど経ちますが、その間、ずっと店に出ていて、自分もそうですがスタッフみんなが楽しそうに働いてるっていいですよね。お客さんと直接お話ができて、おいしいよとか、ありがとうなんて目の前で言ってくれるわけですよ。やっぱり飲食やってる人間にとっては、これがいちばんの喜びなんだなって改めて感じます。
あとは、お客さまに飲んだり食べたりしていただきたいものが提供できるっていうのも楽しいですよね。今回は日本酒に力を入れて、特に千葉の日本酒を発信していく場所にしたいって思っていて、お薦めするんですが、皆さんどんどん飲んでくれて、これ何、これ何って聞いてきてくださるんです。食材もそうですが、どこどこから今届いたばかりのものなんですよとかいうと、じゃそれちょうだいとかいって注文される、こういう直接のやり取りができるってほんとに楽しいですね。
それと年齢層も広がって、今まで来てくださってる年配の方から若い方まで、いろんな客層の方がこのカウンターに抵抗なく座ってくれて、若い方が日本酒にチャレンジしてくれたり、いろんなものを召し上がってくれたりと、おこがましいかも知れませんが、食育にも繋がってたりするのかなって思います。
カウンターに座るっていうのも全然抵抗がないですね。2人、3人のお客さんも黙ってカウンターに案内しちゃうんです。でも、嫌だっていう方はほとんどいませんね。ただ、どうしても親密な話がしたいとかがあれば個室でっていうご希望はあるんですが、カウンターは嫌っていう方はひとりもいないかな。


うちのカウンターって柱が同じ間隔できちんきちんと立っていますよね、そうすると柱と柱の間に2人、3人という席が自然にできちゃうんです。隣の席の方と柱で区切られて全然目があわないのでそこが個室になっちゃうんです。
-- 保川社長
元々柱があって、これは動かせないのでそのまま納めるしかなかったんです。なので最初、柱が邪魔になるんじゃないかと思ったんですが、うまい具合に柱と柱の間が個室になってくれたんですね。
-- 林社長
そうなんです。で、席はカウンターで、目の前で料理していてお客さんは前を見てますよね。前に夢中になってるから隣の人が全然気にならないわけなんです。あとカウンターの奥行きの幅も結構広いから圧迫感もないですし。
-- 保川社長
私ね、よくYouTubeとかで魚を捌くのを見たりするんですが、そういう人にとってこのカウンターは特等席ですよね。肉とかを藁で焼く時の煙がちょっと心配だったんですけどね。
-- 林社長
それは全く心配いりませんね。最初わっーて煙が立ちますが、それも一瞬ですから全く気になりません。
>創業50年というと古くからのお客さんもたくさんいらっしゃるとは思いますが、このように新しくされると新規のお客さんも開拓できるんじゃないですか?
-- 林社長
開拓、かなりできてると思いますね。
-- 保川社長
前の店は1人ではなかなか入れなかったですよね。
-- 林社長
そうなんです。新しいお店では子ども連れのお客さんも座敷で掘り炬燵の方でくつろいでもらったり、車椅子の方でもカウンターの一部が車椅子のまま座れるようになっているので大丈夫ですし、入口もバリアフリーになっているし、通路も広いですから車椅子でも抵抗なく入れるようになりましたからね。
>古い方、新しい方いろんなお客さんがいらっしゃると思いますが、来られた方にはどんなことを感じていただきたいですか?
-- 林社長
まずはこの古民家を楽しんでいただきたいですね。むき出しの梁を見上げたりしながら日本の家屋ってこういう感じだったんだ、とか。そして、千葉の食材とお酒を堪能していただきながら千葉の良さを実感していただき、目の前の職人の流れるような躍動感と、繊細さの両方を知ってもらいながらそういったもの全てを楽しんでいただければいいかなと思います。

少しずつですが、器にもこだわってみたりもしてるんです。酒器だったり、ガラスのものは九十九里町の菅原硝子さんの製品を使わせてもらったりして、千葉ではこういう硝子製品も作ってるんだって知って欲しいなって思ったりしてるんです。
とにかくね、来られるたびにお客さんには何か新しいことを発見していただきたいですね。
>こういうオープンキッチンというか、職人さんの働きぶりをみられるって、今度自分も真似してみようとか参考になりますよね。
-- 林社長
そう、それで質問したりするとね、全部教えてくれるんですよ。何が入ってるのとか、これはこうやって作るのとか、結構丁寧に説明してくれるんです。だから、お客さんにしてみればそういう楽しみ方もあるのかなと思います。
-- 保川社長
正直、設計やっている時はそういう目線で考えるとすごいお店になるんだろうなとは思いましたが、中に入る人は嫌なんじゃないかと思っていました。でも、オープンして何回かカウンターに座らせてもらいましたが、職人さんがお客さんと楽しそうに会話しながら調理してるんですよね。すごいなあ、プロだなあって感心させられました。
-- 林社長
前は奥の厨房にいたのがいきなり表に出てきたわけで、最初は緊張したみたいですが、でも、みんなホールとかいろいろなことを経験してきてるのでできちゃうんですね。ただ、料理しながらお客さんと会話するって大変なんですよ。それでも絶対に遅延しない。
>ところで今、スタッフは何人いらっしゃるんですか?
-- 林社長
5人ですね、和食のシェフ、洋食のシェフ、発酵マイスター、スイーツ担当スタッフ、それと私の息子。それに私と山口を加えて7人でやっています。全員社員で、ほんと少数精鋭でやっています。それぞれ力があるからやれているんですね。大変は大変ですけど、でもなんかやれちゃうもんですね。
>そして今回は民泊施設も併設されたとか。そういうアイデアはどこから発想されるんですか?
-- 林社長
宿泊っていうのは前からやりたかったことのひとつだったんです。それで今回の移転・建て替えをきっかけとしてやってみようとチャレンジしたわけです。あとは保川さんが既にそういう民泊事業で実績を上げておられて、そのノウハウを教えていただいたりとか、相談に乗っていただいたりしたことが大きかったですね。

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それに、完成後の施設・運営管理も保川さんに全部やっていただいたりしてますが、保川さんには宿泊事業に参入する本当にいいきっかけをつくっていただいたなって思います。
県外から来てくれた方、海外の方がここに来て泊まって、千葉を堪能して、ゆっくり休んでくれたらいいなって思います。ロフトも作ってもらいましたが、ロフトに上がると古い梁が目の前にむき出しになっているので、そういう普通触れることのないものに触れたり、じっくり見たりとかいい思い出になると思うんです。ほんと、いい宿泊施設ができたなって思います。
これまでにお泊まりになった方のうち、3、4組かな、みなさん(庭で)バーベキューされてますね。だから、千葉の食材で揃えたバーベキューセットみたいなものも用意できたらいいなって考えてます。それと、これからジビエの季節を迎えるので、そちらも挑戦してみようかと。猟師さんと直接交渉できるようになったので、千葉の食材探求じゃないですけど、どんどん新しい情報を仕入れて発展させていければいいなと思います。ジビエでいうと、実際食べてみるとキョンがとってもおいしいですよ。ハンターさんの処理が上手っていうこともあるんでしょうが、クセがなくておいしいです。
また、鵜原に新月と満月の時だけ海水から取る塩があるって教えてもらったので、こういったものも今後提供していきたいなと思います。
>お店の今後の計画としてはどんなことをお考えでしょうか?
-- 林社長
これまで10年周期ぐらいでいろいろと変えてきていますが、基本的なところは変えていなくて、いいものを、ちゃんとした状態で提供して、お客さんに楽しんでいただくところは変わっていません。今回のように見たところが変わったとしてもです。でも、時代の流れってありますから、ただ古いっていうのでは駄目で、老舗のうなぎ屋さんでも、はやりの牛丼屋さんでも、時代に合わせて味を変えたりしていると思うんです。だからうちでも、これだけは守らなくちゃいけないというところは守りながら、その時代、時代に合わせて変えていかなければいけないだろうなとは思います。今回のこのカウンターという作りもそんな流れの中から生まれてきたアイデアだし、売り方の提案も新しいものを取り入れていかなければならないでしょうね。10年後がどうなっているかはわかりませんが、でも、何か変えようって思う時が来るかもしれません。その時に遅れないように常にアンテナを張っていなければいけないし、その時、その時のトレンドをちゃんと感じとっていけるように時間を作り続け、歳をとっていきたいですね。
>保川社長にお聞きしますが、民家再生のお客さんってあまりこだわりのない方と、逆にこだわりの強い方とではどちらがやりやすいですか?
-- 保川社長
うちはこだわりの強い、ああしたい、こうしたいってご希望をお持ちのお客さんが多いんです。仕事的にはその方がいいですね。全部お任せでって言われるとちょっとね。まあ、うちは会社の理念が「暮らしをもっと、おもしろく」なんですが、お客さんにしてみれば完成してからが大事なんでしょうが、せっかくこれだけお金をかけてやるんだから、(建築という)プロジェクト自体から楽しんで欲しいって思いを理念として伝えたいんですよ。そういうお客さんのプロジェクトって大変なことも多いんですが、ただ、うちのスタッフもみんな仕事が好きなんです。そうすると、こだわりを持ってくれているといい仕事ができますよね。そいうふうには強く感じますね。
古民家ってやっぱりいろんな思いが強いんですよ。そうじゃないと残そうなんて思わないじゃないですか。めんどくさいって。親が代々住んでいたとか、昔からこういう家に憧れていた、住みたかったとか、こういう思いがあって再生に繋がるので、それがないとプロジェクトとして成り立たないと思います。
こういう例もあるんです。自分が生まれた家で、人の手に渡っていたけど取り戻したんで、残したいって。大変だけどやりたいって、思いが強くお持ちでね。まあ、こういう思いがいちばん大事でね、今回の「もんしち」さんもそうだったんじゃなかと思いますが、相当悩まれたんじゃないでしょうか。でも、最終的に再生されてすごいなって思います。
-- 林社長
うちも保川さんにやっていただいて本当によかったです。しかもこんなふうに記録に残してもいただいて。
>本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
インタビュー:令和4年9月1日(木)@もんしち
(インタビュアー/アットホームP.S.)
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保川建設株式会社
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