
今回の工事で苦労されたのは?
今回のこの再生工事だけど、どこが大変かと言って、全体的に大変なことばかりでね。とにかく、これだけ大規模な民家再生はそうあるもんではないですからね。今回は曳家も大掛かりだったですし。曳家といえばいつもなら大工は見ないんですよ、曳家の時は大工仕事はできませんから。ただ今回は、見物客もいたし、メディアの取材も入ってたものでその立ち会いでいいところ見させてもらいました。
工事からは何か得ることってありましたか?
この家は築300年、江戸中期の建物ということで、チャンバラの時代に建てられたものが、今、こうやって僕たちが工事できるっていうのは感慨深いものがありますよ。昔の大工がやったものを、今度は自分が手を加えるのってロマンがあるでしょ。この家、造りから言えば基本的には田舎造りだから今のものも、100年前とか300年前のものとかも建て方としては同じなんです。部材の組み方とかね。ただ、そうなんだけど屋根が時代とともに茅葺きから瓦屋根とか今風なものになったりと変わるんです。それでその屋根材によって構造もまた変わってくるわけです。その辺りを見ながら、あと楽しみといえば解体とかしてるうちに古いものが所々出てくるんです。例えば障子や襖を繕った下地にその当時の新聞紙とか、領収書とか、いろんなものが貼り付けてあったりして、それを見るのって結構楽しいものです。
若い頃と今では、仕事上で何か違いがありますか?
保川建設に来る前は、一般住宅を手がけていて、古民家を始めるっていうことで保川建設に来たわけだけど、それ以来古民家再生は何軒かやりました。そんな中で、昔の大工さんの仕口や継ぎ手、構造上の納まり方とかね、そういう「ワザ」なんかを見ると、おー!とかって感心することはありますよ。こういう技術って、今の近代建築においては忘れられていますからね。今は時間との勝負ですから、あまり手をかけた仕事してると、親方からそんなことしてないでもっとさっさとやれよ、なんて言われちゃいますから。結局は昔風なやり方ではなく、今風の継ぎ手とかでやっちゃうようになるんです。そうすると昔からの伝統の技術が頭から離れていっちゃうんです。
古民家を見てどう思われますか?
昔からの大工技術はね、今、私らの年代の人間が次の世代を育てていかないと廃れていってしまうんです。一般の住宅ではこんな手の込んだ仕事ってできませんよ。そんなことしてたら大変なことになってしまうでしょう(笑)。こういう古民家があればこその仕事、技術なんですが、これからはこういう建物もどんどん少なくなってくるのではないでしょうか。お客さんだって、今、自分たちで直して次の世代に残していこうかという人と、いや、もう新しくしたほうがいいよなんて周りから声をかけられて、どうしようかと悩んでいる人も結構いるようですから、古民家はどんどん減ってくるし、残っていても人が住まなければどんどん傷んでくるわけで、古民家は減るいっぽうです。私らの代がラストチャンスではないだろうかな。
建築事情もずいぶん変わってきたんでしょうね?
この家も築300年ですから、この辺りで現存する家としては最古の部類に入るんじゃないでしょうか。だいたいこの辺りは戦争が終わって落ち着いた頃に建てられた家が多いんです。材料も自分のところの裏山から切り出したもので建てて、その後にまた植林してね。でも、次の世代のためにした植林も山の管理ができなくて山が荒れてしまうので、今やもう、地元の材料ってものにならないですよね。それにコロナだとか、戦争だとかで材料以外でも値上がりしていて家を建てるのもコストがすごくかかる。保川建設でも心配していますが、家を建てるって、これからどうなるかわからないような大変な時代になってしまいました。保川建設の場合はストックがあるので、まだ仕事をやりきれているのではないかと思いますが、本当に今、材料を時価で買って家を建てようとすると、とんでもない金額になっちゃうんじゃないでしょうか。とはいえ、こういう建物はこれからもずっと残したいですよね。
今までで手掛けた中で印象に残っている民家再生の現場は?
同じ現場は一つもなくて、どの現場も印象に残っているけど、やっぱり
千葉市のI様邸はとりわけ印象に残っていますね。色々あったから。賞ももらって。それこそ紋七さんと同じような間取りですよね。昔は施主さんよりも大工の意見の方が強かったから、大工がここをこういう部屋にして、こういう間取りで~といって、施主さんがはいっという感じだった。だから、大工が材料の計画をたてるときも、ここで余ったこの材料はあっちの家のあそこに使って~と頭の中で考えて材料を無駄にすることがなかったんですよ。
ご出身は青森の大間とか伺いました。
私は出身は青森・下北半島の大間なんです。学校を出て、北海道で修行してこっちに来たんですが、こっちがすっかり気に入ってしまいましてね。ここは本当に環境がいい。どっちの好きなんですが、海にも近いし、山にも行ける。それにここら辺の海岸線って、私の田舎とよく似てるんです。海があって、海岸に沿って道路が走っていて、そこからいきなり崖になっていて山がそびえている。田舎は下北半島、で、ここは房総半島。私は半島が好きなのかなあ(笑)。
インタビュー:令和4年5月12日
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保川建設株式会社
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